東北へ、ひとりで。1日目

2018年7月22日―23日

 

 21:40東京駅発の夜行バスで青森県弘前へと向かった。夜行バスに乗るのは初めてだった。意外と寝ていれば時間が過ぎるのは早く感じたが、尻が痛いのはどうにもならない。目が覚めては体勢を変え、音楽を聴いて気を紛らわした。

弘前駅に到着したのは7:43だった。到着予定が7:40だったので、約10時間の走行にも関わらず3分しか誤差がないことに感動した。しかしそんな気持ちも束の間、降りた瞬間の雨を見て気持ちは少しブルーに。車内の窓は全てカーテンが閉められている。運転席と座席の間にも仕切りがあり、フロントガラスが見えない。外の景色が完全に遮断されていたため、雨が降っていることに気づかなかったのだ。

初日は白神山地を散策する予定だったため、私が絶対的信頼を置くiPhoneの天気予報でさえも当てられなかった予想外の雨は、胸躍らせる私を若干萎えさせたものの、予定を変更するほどでもない。雨具は準備してきたし、そこまで大降りでもない。特に問題はない。と気合を入れ直す。弘前駅からはバスで「アクアグリーンビレッジANMON」に向かう。駅の入り口付近でバスの時間とバス乗り場を調べていると、次から次へと高校生がやってきた。そうか、通学の時間か。

「○○こねんだげど。」

「やばぐね、○○寝でんじゃね。」

 

そうか、ここは青森か。

 

バス乗り場へ向かう途中に偶然乗車券売り場を見つけた。人が3人入ったら見動き出来なさそうな小さな建物だ。そろそろと重たくドアを開ける。女性が1人座っている。

「あの、白神山地へ行くバスに乗りたいんですけど」

「どごさゆぎますか。」

「あ、アクアグリーンビレッジANMONまで。往復で。」

「2,470円にな゛りますね。おぎをづけで~。」

「…ありがとうございます。」

 

そうだ、ここは青森だ。

 

 無事、弘南バス「津軽峠」行きのバスに乗り、目的地へ着いた。中型のバスだったが、乗客は僕以外におばさんが(60歳くらいだろうか)1人いるだけだった。そのおばさんは「田代(西目屋役場前)」で降りた。そこには白神山地のビジターセンターがあるようだ。

「アクアグリーンビレッジANMON」は散策コースの入り口になっており、観光案内所や売店、レストランなどがある。ホームページによると、どうやらコテージや入浴施設もあるらしい。団体の観光客が賑わっていたが、長靴に履き替えた後散策を開始するわけではなくバスでどこかへ向かって行った。

少し寂しくなったそこで買ったばかりの登山用の靴、シャカシャカした動きやすいズボンに履き替え、半そでTシャツの下にピチットしたアンダーアーマーを身にまとう。いかにもトレッキングが趣味なそれっぽい身なりになった。買ったとき店員に言われたようにつま先でトントンと2回地面を蹴り、靴ひもをギュッと強く結ぶ。コースの書いてある看板をしばらく眺める。こっちだろうか。体を向けた方向の先には夫婦らしき2人の背中が見えた。そのまましばらくついて行けば大丈夫だろう。

 

 しばらく舗装された道を歩くと、寄付金を集める2人組のおじさんがテントの下で僕を迎えた。“気持ち”の500円を支払い、いざ白神山地の中へ。ブナ林の間に設置された遊歩道をぐるりと1週、約1時間かけて歩き、入り口まで戻ってくるというコース。ゆっくりと、ひとつひとつの景色をじっくり眺めながら歩く。いつの間にか前を歩く夫婦もいなくなり、後ろにも人はいない。

白神山地は、原生的なブナ林が広範囲にわたって現存し、その生態系が世界的に貴重な価値として評価され、日本で最初の世界遺産に登録された。そんな世界遺産を僕は、平日の早い時間のためか完全に貸し切りの状態で歩いている。雨が森に落ちる音が聞こえる。透き通ったしずくが葉に滴る。雨が降って良かったのかもしれない。雨が降ってくれたおかげで、より幻想的で神秘的な白神山地を味わうことができた。都合の良い時にだけ感謝される雨。雨にとっては僕の神秘なんぞまったくどうでもいいことだろう。

 進むとさらに神秘さは増していった。徐々に濃くなる霧がブナ林を覆う。霧の中に1人閉じ込められていった。もし、霧の向こう、森の奥から何者かが現れたら、それが「もののけ姫」に出てくるシシ神であったらもちろんのこと、例えただのイノシシでも。ツキノワグマであっても一人のおじさんであったとしても。=(イコール)この森の神様であると錯覚してしまうような。そんな神秘さがあった。そんな神秘の空間を私は独り占めしていた。誰にも邪魔されず、誰かの気配が一切するわけでもなく、白神山地を歩いていた。

 時間が経つにつれ、雨が止み霧は晴れていった。すれ違う人の数も多くなる。早い時間に来られたことが幸運であった。だいたい10時半にスタートし、ゆっくり歩いて12時くらいには散策を終えていた。コースはいくつかあり、第1~第3の滝からなる「暗門の滝」を巡るコースなどもある。バスで「津軽峠」まで行けば、樹齢400年の巨木「マザーツリー」を見ることもできる。僕はバスや電車の都合上、見ることはできなかった。それは今回非常に後悔していることである。次回は車で来よう。

 バスで弘前駅まで戻る。そこから「リゾートしらかみ」という列車に乗り、約2時間かけて本日の宿がある「深浦駅」へ。「深浦観光ホテル」に宿泊。次の日の活動に備えての場所だ。温泉に浸かった後、売店へ立ち寄る。レジのおばあちゃんに1本の缶ビールと1万円札を渡す。

「ごめんなさい。細かいのなくて。」

「あら、1万円もっでんの。大したもんだ。」

「ははは。」

「ひどり旅@#&%$? さみ゛しぐな゛い?」

「寂しくないですよ。気楽ですよ。」

「@$#&*@&%??」

「ははははは……はい。」

 

そうだ、ここは青森か。